国土造形者の矜持を

「近年、土木を取り巻く国際環境の激変、技術革新や工事量の停滞、若者の土木離れ等に対処すべく、…(中略)、国民生活のニーズや文化に寄与する形での『創造する技術革新』を…。これは、見方を変えるならば、より魅力ある土木を目指して取られた戦略とも言うべき挑戦であり、テクノロジー・ルネッサンスへのサイが投げられたと言えよう」(土木学会誌および同論文集・一九八七年)。いやはや、若かりし頃に書いた文章とはいえ赤面の至りである。
私の研究室は、一九八〇年頃から産業副産物である副産物フェライトを利用した新しい技術開発、すなわち磁気標識システムによる視覚障害者の誘導技術、振動吸収材料、人工魚礁、免震用積層ゴム、電波吸収体等の研究・開発に邁進し、多くの分野の人々と協力しながら省資源、福祉、環境、ライフラインの確保等の『未来型テーマ』を先取りして取組んできた。
 これらのテーマは社会経済状況や市民意識の変化を見据えながら設定したものであるが、その志向する先は多くの諸先輩が営々と築き上げてきた実績、すなわち、安全で豊かな国民生活の実現や活力ある経済発展に寄与する社会資本整備の役割を担って社会に貢献することである。ただ、最近の道路四公団の民営化論議、道路不要論等に代表されるように、社会資本整備の歴史的・社会的意義に対する客観的理解を必ずしも十分得られていないことも事実である。
 高速道路、国交省の一般国道、農水省の農道、林野庁の林道、市町村道等の「ゆがんだネットワーク」を有機的に結合して、合理的なネットワークづくりを早急に進めるべきである。道路を利用する市民にとっては、便利で安全であれば、道路建設の発注官庁はどこでもよいことなのである。国土の将来といった観点から社会資本の質と量について、市民と様々な情報を共有しながらコンセンサスをつくることに努力を惜しんではなるまい。
 九月末に第三回乳剤世界会議に出席のためフランスのリヨンに滞在した。九十八年登録の世界遺産である「リヨン歴史地区」には同市の経済活動のおよそ四分の一が集中しており、市民生活と文化財保全の調和をいかに保つかが話題になっていた。同席したドイツのフライブルグの技術者が世界的環境都市として有名な同市を多くの日本人が訪れていることを自慢していたが、太陽光発電システムの配備はわが国の方がはるかに進んでいる。そして日本の土木技術をもってすれば、日本にも「フライブルグ」を建設することは、そう難しいことではない。要は、「土木は国土を造形する」ことを再認識し、国家が戦略的な集中投資をできるかどうかである。

筆者が英国の道路・運輸研究所に留学していた一九七九年、英国のロイヤル・アカデミー・オブ・アートでアイアンブリッジ竣工二百年記念行事が開催され、社会資本およびそれに携わる技術者の社会的評価がきわめて高いことを実感した。以来、フォトエッセイ「世界の道」で世界各地の道路や先人の創造した多くのヘリテージを紹介してきたが、これらの「造形」を見るにつけ、時代の要請に対応しながら持続的に活用される社会資本整備を進めていくことが、将来世代に対する我々現代の技術者の責務であると考える。